8人制のゾーンディフェンス その4
第4回 完成形
ボールを奪う = 攻撃へ
導入初期段階では「ボールを奪いにいって抜かれない」ように教えてくださいと書きました。
チームで連携したゾーンディフェンスの形が出来てくると、セカンドボールが拾えるようになり、失点も減り勝ち試合が増え、なんか良い感じだ、ゾーンディフェンスを習得した。と思う時が来ます。
でもそれは 真のゾーンディフェンスではありません
今回は8人制ゾーンディフェンスの完成形の話をします
前回、第3回までの話は 上記表の「②チームで連携した動きができる」までの話でした。
ここまで出来るとそれっぽい形ができ ゾーンで連携し守れているような感じになってきます。
ゾーンを組めていれば簡単には突破されないので そのうち相手のミスでマイボールになります。それで満足してはいけません。
ゾーンディフェンスの最も面白いところは、守備側がゲームをコントロールすることです。ゲームをコントロールするために必要な要素を下記に纏めます。
ディフェンスをしながら相手とボールをコントロールし「狩場」へ誘い込みボールを奪うことを練習していきます。これを『嵌める(はめる)』と言います
ボールを奪いにいくと 抜かれることもあります
空いた穴をうめることを『スライド』と言います
ボールを奪いにいくにはこのスライドを覚えないといけません
導入初期でボールを奪いに行くなと教えるのは、このスライドを発生させないためです。スライドができないとゾーンディフェンスは滅茶苦茶になってしまいます。なので基本的な連携、ポジショニングができるまでボールを奪いに行かせないほうがゾーンディフェンスの習得が容易になります。いるべき場所が分かればその場所を埋める『スライド』もできるようになります。誰かが穴を埋めてくれる→だから思い切ってチャレンジできる そんな流れです
そして、ゾーンディフェンスの完成形で最も重要なのが「④攻撃へ移る」です
ジュニア年代で個の技術の育成だけを考えた場合、マンツーマンディフェンスの方が手っ取り早いと思います。ポジション関係なく自分と同じくらいの相手にマンツーマンでついて競えば個の育成になるし、失点も減るでしょう。
しかし、現代のサッカーそんなに単純ではなくなっています。
上記の表をみてください ③から④は矢印ではありません
③から④は 同時進行です
現代サッカーのスピードが上がっている原因がここにあります。
連携したゾーンディフェンスを組むことで、ボールを奪った瞬間 自然と攻撃の陣形が整い、攻撃が始まります。
第3回に出てきた下記のポジショニングをみてください
相手ボールですが #7はカウンターを仕掛けらられるポジションを探し、#8は裏のスペースを探しながらポジションを取っています。ボールにチャレンジしている選手も味方の位置を把握し奪うと同時にボールを展開します。
マンツーマンディフェンスではそうはいきません。相手に合わせてバラバラに動くので、ボールをとっても攻撃の陣形はできていません。一度後ろに戻し陣形を整えて、、、
現在、そんなサッカーは通用しません
「攻守の切り替えを早くしろ!」というコーチングを良く聞きますが、ゾーンディフェンスの完成形では攻守の切り替えはありません。常に「守りながら攻め」「攻めながら守る」のです
ボールを奪う機会とは?
ゾーンディフェンスはチーム全員(コーチ含め)が今やるべきことを共通認識することが必要です。
ボールを奪う機会についても同じです
自分1人が「よし!今なら奪える」と思うのではなく チーム全員が「今なら奪える!行くぞ!」と思うようになることが必要です
では、ボールを奪う機会 とはどんな時でしょう?
上記3つがボールを奪える条件です
①は文章の通り 後ろを向いている選手は怖くありません
よほどトリッキーな技でない限り抜かれることはありません
ガンガン仕掛けてください
当たり前だと思いますが ジュニア年代では意外とできていません
相手が後ろ向いていると安心してしまうのでしょうか 止まって様子を見る選手が多いです。
相手が後ろを向いたらチャンスだということを徹底して教えてください
②ボールが奪いやすい場所と奪いにくい場所
ボールを奪いに行って良い場所と奪いに行ってはいけない場所があります
数字が高いほど奪いに行くべきエリアです
失点のリスクがなく、数的優位が作れ、相手(ボール保持者)の選択肢が少ないほど数字が高くなっています
a左高・c右高 は60%
失点リスクは低いが数的優位は作りずらい しかしサイドラインに追い詰めれば相手の選択肢が少なくなりチャレンジするに値するエリア
b中高 は40%
状況はa/cと同じだが 中央で相手の選択肢が多いため逃げられやすいエリア
d左中・f右中 90%
ここで相手が少しでも後ろを向いたら迷わず奪いに行くべきです
失点のリスクはあまり高くなく数的優位も作れ相手の選択肢も限られます
また、このエリアでボールを奪えると相手陣地へも近くカウンターが仕掛けられます。前線の選手はこのエリアに来たら攻撃の準備を必ず行ってください
一般的な『嵌める』のもこの位置が多いです
相手の選択肢を削りこのエリアに誘い込みましょう
e中中 20%
数的優位は作れるが失点のリスクが高く相手の選択肢も多いこのエリア。ここで奪いに行き抜かれた場合、ダメージが大きいです。また、失点に繋がるフリーキックを与える危険もありボールを奪いに行くには適さないエリアです。しっかりブロックを作り相手とボールを押し出すことに専念した方が良いです
g左深・h右深 30%
数的優位は作れるが失点のリスクが高く危険なエリア。eより相手の選択肢が限られるので若干奪いやすい。コーナーフラッグ付近では囲みやすく奪う機会は多いが、このエリアではボールを奪った後も気をつけたい。奪った後相手に奪い返されるとさらに危険。味方へのパスを狙われることもある。状況を把握し繋ぐのかクリアかしっかり判断する必要がある
③は数的優位で取り囲み 相手が前を向けていないときは奪うチャンスです
このように、「ボールを奪う」(ボールを奪える)機会には法則があります
この法則をチームで共通理解できるようになれば連動した守備ができます。さらに熟練されると相手を狩場に誘い込み『嵌める』ことができます。
下記の動画は柏レイソルvs浦和レッズU11の試合のワンシーンです
ものすごい勢いでボールを追いかけているだけに見えますがこの速い動きの中にボールを奪う法則が実践されています
まず、スローインを受けた浦和レッズの選手は前を向いていません
それを見た柏レイソル#7はプレッシャーをかけに行きます
プレッシャーをかける前に中央の味方をチラリと見ています
中央の味方選手も『奪いどころ』と判断しそれを確認した#7はフルスピードで相手にチャレンジします
浦和レッズの選手は中央のCBにボールを渡そうとしますが、柏レイソル中央の選手がパスコースを狙っているのが見えたので中央を諦めキープします
柏レイソル#7は後ろ向きの選手に激しくあたりサイドラインへ追いやります
このように、J下部ジュニアの選手たちは普通にこのレベルの守備を実践しています「マンツーマンディフェンスで個々のスキルを」と言っている場合ではありません
スライドができるからチャレンジできる
ボールを奪うチャレンジをすれば失敗し抜かれることもあります
抜かれたことを叱るのではなく 抜かれた時の対策を準備するのがコーチの仕事です。
ゾーンディフェンスはひとつ穴が開くと一気にほころんでしまいます
その穴を埋めるの方法が『スライド』です
簡単に言えば、誰かがその穴を埋めれば良いだけです
実は、その『誰か』というのが重要なのです
「〇〇が抜かれたら△△がスライドしろ」と名指しで教えがちですが、それをやると失敗します。場面場面によって状況が異なるので決めてしまうと対応できなくなるのです。
だから『誰かが』で良いのです。強いて言えば一番近い人が、最初に気づいた人が穴に入るくらいで丁度良いです。
そしてもう一つ重要なのが スライドは1人では終わりません。〇〇のカバーに△△がスライドしたら、△△の場所に□□がスライド。と複数人で連携してスライドする必要があります。
下の画像は 左中でのポジショニングです
わかりやすくFWとMF、DFを色分けしています
前回の通り、ここで#2は縦に抜かれないようについていきます
抜かれなければ DF3人とMF1人でゴール前に蓋を作れます
しかし #2が抜かれた場合どうなるでしょう
先ほどと同じ状況ですが
#2は縦に突破を許してしまい 陣形が崩れてしまいました
本来#2がいるべき場所に#3が、#3がいるべき場所に#4が、
#4がいるべき場所に#7が、#7がいるべき場所に#8がスライドしています
下記の図と見比べてください
形は一緒ですが 人が違います
守らなくていけないところから優先的に詰めていくので この場合 最も守備に関係のないFWの位置(#8がいるべき場所)には人がいません
このように『スライド』ができるようになれば抜かれることを恐れずにボールにチャレンジすることができます。
しかし、いつでもボールを奪いにいくのではなく ボールを奪える法則を理解しチーム全員がボール奪取のスイッチを自然に入れることができるようになる必要があります
ゾーンディフェンスがここまでくるとボールを奪った瞬間、攻撃の陣形ができています。奪う前から前線の選手はゴールを狙って準備しています。
どうでしょう、なんだかワクワクしてきませんか?
現代サッカーはこんなに進化しているんです。是非チャレンジしてください
難しい内容をとても丁寧にわかりやすく説明していただき、ありがとうございました。
とても参考になります。
実践に落とし込めるように、子供と練習したいと思います。
お時間のある折りに、8人制のビルドアップ、特に中盤からシュートに行くまでの戦術についてご紹介いただければ嬉しいです。次回の更新も楽しみにしています!!
コメントありがとうございます
中盤からゴールへの形。あることはあるのですがジュニア年代で教えたほうが良いのかは疑問です。
良く相手がいない状態でゴールまでの形を繰り返し練習しているチームがありますが、あれをやると相手を見なくなってしまいます。状況判断を飛ばしてしまうんですね。
その辺りも今度記事にしてみたいと思います。